MAKI Gallery / 天王洲, 東京では入場制限を行うことがあります。*想像 #1 manはひとりずつの体験となります。

EUGENE STUDIO /
Eugene Kangawa:
想像の力 Part 1/3

2023.06.02(金)-08.05(土)

The show will take place in MAKI Gallery and MAKI Collection in Tennoz I, Tokyo, with the addition of EUGENE STUDIO Atelier iii, the artist’s expansive atelier located in the outskirts of Tokyo, as a special venue.

Outline

この度MAKI Galleryは、ユージーン・スタジオ/寒川裕人の個展「ユージーン・スタジオ/寒川裕人 想像の力 Part1/3」を開催いたします。本展は、MAKI Galleryの天王洲 Iギャラリースペースとコレクションスペースの会場に加え、特別公開となるユージーン・スタジオ/寒川裕人の東京近郊の広大なアトリエ「EUGENE STUDIO Atelier iii」も会場となります。

全3章で構成される「想像の力」と題された複数年に渡る展覧会の第1章となる本展は、コレクション作品や新作を交えた幅広い作品群により構成され、作家の活動の探究に迫る重要なものとなるでしょう。

寒川裕人は1989年アメリカ生まれ、ペインティングとインスタレーションを中心に知られ、国内外での活動で成功を収めています。特に、東京都現代美術館における個展「ユージーン・スタジオ 新しい海/EUGENE STUDIO After the rainbow」は、過去に草間彌生やオノ・ヨーコらが個展を行ってきた同館で最年少での開催となったほか、入り口では最大数時間待ちとなり、作家蔵の作品を除きすべての作品がのちに世界各地のコレクションに収蔵されるなど、記録的な盛況と鮮烈なインパクトをもたらしました。

同展のコンセプトの一つである「想像の力」という言葉をタイトルに冠した今回の個展は、複数のコレクターによる協力のもと、これまでの展覧会での試みを継承しつつ、多角的・多次元的に広がる作品群によって、私たちを哲学的な作品世界に導きます。

MAKI Galleryでは、ひとつの新作を中心に、5つのシリーズ「Light and shadow inside me」 「想像 #1 man」 「Goldrain」 「White Painting series」 「Rainbow Painting series」が展示されます。(一部展示作品は会期中に変更する可能性があります。)
MAKI Galleryの開館時間等の情報はこちら。

2. Another special venue,
EUGENE STUDIO Atelier iii

Left: Yellow flower field drawing, 2021
Oil, gouache, grease pencil on brass, 305 × 600 cm
Right: EUGENE STUDIO Atelier iii

Top: Yellow flower field drawing, 2021
Oil, gouache, grease pencil on brass, 305 × 600 cm
Bottom: EUGENE STUDIO Atelier iii

2. Special Venue:
EUGENE STUDIO Atelier iii

本展で注目すべきは、ユージーン・スタジオ/寒川裕人が東京近郊に構える700平米超のアトリエも会場となることで、本会場は一日組数限定、予約制で公開されます。

2020年から作家が拠点とする同アトリエでは、全体の空間設計や扉・壁・家具など大部分の製作が作家およびスタジオ自らのDIYで行なわれており、過去に使用した素材をリユースするなど、アトリエそのものが作家の美学、日常を体現する媒体となっています。
自然光に満ちた部屋や、ペインティングやインスタレーションが並ぶ空間への訪問は、作品と空間の関係性において美術館やギャラリーとは異なる、新しい鑑賞体験となります。

予約枠は下記リンク先よりご案内いたします(一日組数限定、予約制)。
尚、本プログラムは作家不在です。

詳細/予約

EUGENE STUDIO Atelier iii
*一部写真は2021年のものです。作品は時期によって変更される可能性があります

作家プロフィール

寒川裕人(Eugene Kangawa)は1989年アメリカ生まれ。過去に東京都現代美術館 個展「ユージーン・スタジオ/新しい海 EUGENE STUDIO After the rainbow」(2021-22)、金沢21世紀美術館「de-sport」(2020)、資生堂ギャラリー個展「1/2 century later.」(2017)、サーペンタイン・ギャラリー(ロンドン)「89+」(2014)など。
そのほか過去に人工知能や農業、バイオテクノロジー領域などの研究開発への参加や招聘があり、初期の活動は2017年に『アート×テクノロジーの時代』(宮津大輔著、光文社新書)にてチームラボらとともに日本を代表する四つのアーティストとしてまとめられている。また2021年アメリカで発表された2つの短編映画は、ブルックリン映画祭やUrbanworld Film Festival、パンアフリカン映画祭、ヒューストン国際映画祭、ロードアイランド国際映画祭など米アカデミー賞クオリファイを含む複数の映画祭でオフィシャルセレクション選出や受賞などがある。

EUGENE STUDIO website
Instagram (EUGENE STUDIO official)

Eugene Kangawa
Photo: Asuka Yazawa © 2023 Eugene Kangawa

1. Light and shadow inside me Gelatin silver print (photogram)

Image a.
Light and shadow inside me, 2023
300 × 202 cm
Gelatin silver print (photogram)

Image a.
Light and shadow inside me, 2023
300 × 202 cm
Gelatin silver print (photogram)

Light and shadow inside me

2022–, Gelatin silver print (photogram) / 2021–, Aqueous dye on paper

「Light and shadow inside me」シリーズは、寒川の代表的な平面作品シリーズであり、代表的な翠色のもの(画像b)は水性染料を一面に塗布した紙を多角柱になるよう折り曲げて固定し、太陽光に数週間晒して制作されます。太陽の方向によって面ごとの光の当たり具合が変わり、退色の程度に差異が生じることで、グラデーションの「絵」が描き出されるのです。ここでの退色は、色を変えるという‘進行’でもあり、元の紙色へ戻す‘後退’とも言えます。また、日焼けを利用する点で、本シリーズは絵画とも写真とも捉えられるでしょう。「絵自らがもちあわせる光と影」のみでイメージを描くこの還元的な作品は、光と影、モチーフと支持体、絵画と写真、そして、始まりと終わりなどの関係性へ新たな視点を投じます。

本展では、翠色の作品から派生した、白黒の新作も発表されます(画像a)。本新作は銀塩写真印画紙を用いたモノクロームの作品で、翠のものと同じように、ひとつながりの紙を折り曲げ多角柱にしますが、暗室で数秒の光を当てて印画紙に直接感光させて制作されます。その質感や巨大なサイズからはおよそ通常の写真作品とは想像できない作品となっており、絵画作品と同じ圧力を感じさせます。最小の要素で光の記録・観測という写真の仕組みを再現することによって、本作は事物の本質を問うのです。

Fold the paper, shape it into a polygonal prism, expose it to light.

2. Light and shadow inside me Aqueous dye on paper

Image b.
Light and shadow inside me, 2021
Installation view: Museum of Contemporary Art Tokyo

Image b.
Light and shadow inside me
07.21-08.23 in my house, in Tokyo, 2021
Aqueous dye on paper
107.6 × 155.7 cm
Private collection

Fold the paper, shape it into a polygonal prism, expose it to sunlight.

3. 想像 #1 man Statue

想像 #1 man

ユージーン・スタジオ/寒川裕人 「想像 #1 man」、2021
Statue
Taguchi Art Collection
© 2021 EUGENE STUDIO / Eugene Kangawa

「想像 #1 man」は、手で作られた立体の‘人’の彫像作品ですが、制作のはじめから終わりまでのすべての工程が一貫して完全な暗闇の中で行われ、展示も暗闇の中で行われるため、作家本人を含め、永遠にだれひとりとしてその姿を見ることがない彫刻作品です。

暗闇の中で鑑賞者はひとりずつ室内に入り、本作に触れることができます。本作が東京都現代美術館で発表された際は、大きな話題を呼びました。ここでは、鑑賞体験自体への新たな試みがなされており、アートを供給する側、アートへ臨む側双方の可能性を拡張しています。
また、作品の日本語タイトルである「想像」は、漢字の意のまま解釈すれば ‘(頭の中で)像を想う’という意味であることから、想像という行為の元来備えている力をシンプル且つ最大限に示した作品であると言えるでしょう。


*本作「想像 #1 man」は安全上、ひとりずつでのご案内となります。ご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。

4. Goldrain Particles

Goldrain, 2019
Particles

Goldrain, 2019
Particles

Goldrain

2019
Particles

「Goldrain」では、煌めく金粉と銀粉の粒子が果てしなく降り注ぎ、常に様相を変えながら鑑賞者の前に現れます。

キネティックな彫刻という言葉では本作を説明するに足りず、時間や重力に従いながらも人為的な制御を受け付けず、かつて誰も見たことのないような動きを続ける様は、生と死の繰り返し、連鎖によって綴られる生命の物語を囁くかのようです。

この静謐な空間は、鑑賞者を深い思慮の旅へと向かわせるだけのエネルギーを内包しています。

5. Rainbow Painting series Oil painting on canvas with brush

Rainbow Painting series
Group portrait (Surrounded surging crowd of people), 2021
Oil painting on canvas with brush
292 × 788 cm
Private collection

Rainbow Painting series
Left: Group portrait (Hitonoyo), 2021 / Oil painting on canvas with brush, 291.5 × 212 cm, Private collection
Center: Group portrait (Where are you?), 2021 / Oil painting on canvas with brush, 294 × 214 cm
Right: Group portrait (Rainbow), 2021 / Oil painting on canvas with brush, 244 × 184 cm, Private collection

Rainbow Painting series

2021–
Oil painting on canvas with brush

「Rainbow Painting series」は、‘群像のポートレート’を油彩で描いた作品群です。同じくコミュニティをテーマとする「White Painting series」では見えない跡が重ねられますが、本シリーズでは筆の跡がキャンバスを覆います。ひとりの人物を一つの筆の跡に準え、無数の筆跡を重ねることで、差異のある個々の集まりが作品全体に渡る複雑なグラデーションを生み出す様が示されます。一つ一つの差異を大きいと捉えるか、小さいと捉えるかは、鑑賞者の解釈に委ねられるでしょう。しかし、キャンバスの上に個の集積が作り出した情景は只管に美しく、集団の中に生きる人類に対しての期待を鑑賞者に抱かせずにはいられません。

Rainbow Painting series
Group portrait (Hitonoyo), 2021
Oil painting on canvas with brush
291.5 × 212 cm
Private collection

Group portrait (Where are you?), 2021
Oil painting on canvas with brush
294 × 214 cm

Group portrait (Mixed grey) #2, 2021
Oil painting on canvas with brush
116.7 × 116.7 cm

6. White Painting series Canvas

White Painting series (reference work)
Juliette, Sandra, Mitch, Wills, Gillies, Ergas, Asheron, James, Lilly, Thomas. P, Elias, Sofia, Victoria, Mackay, Jamin, Amelius, Prince, Cathy, Valerie, Keiny, Peter, Dona, Sam, Zaret, Christina, Laurencie, Owel, James, Kairy, Frances, Thom, Sugay, Marien, Kinbary, Kalen, Morry, Callen, Mut, Elen, Bruno, Peter, Daele, Clara, Benjamin, Charlotte, Michael, Ryan, Ina, Diego, Javia, Candelas, Robin, Rucaro, Daniel, Rumi, Benney, Sarah, Emily, Jack, Peter, Kevin, Safiya, Trisha, Eric, Danielle, Paul, Floyd, Alexis, Carlos, Nydia, Samantha, Daniela, Michael, Dom, Matt, Todd, Ava, Cailin, Melissa, Kirby, Alexandra, William, McGuiness, Liliana, Francisco, Daniel, Patricia, Anna, Dalia, Ricardo, Diana, Maribel, Barbara, Gabriela, Cristel, Kenia, Lorenzo, Gladys, Alberto, Carlos
2017
Canvas
160 × 160 cm
Private collection

White Painting series

2017–
Canvas

「White Painting series」は、真っ白なキャンバスに人々が接吻していくという制作過程をとる絵画の作品群で、タイトルには参加した人々全員の名前が羅列されます。接吻の跡は目に見えないものの、鑑賞者はタイトルを通して作品に重ねられた人々の多様な思いを想像します。

2017年より開始された本シリーズは、アメリカ、メキシコ、イタリア、台湾などの各都市で、街往く人々の参加により実現されてきましたが、新型コロナウイルス感染拡大以降、街頭での制作は行われていません。

しかし、時を経たことで、本作は人類史に残る社会的出来事が私たちの日常に与えたインパクトを記録する、稀有な作品となりました。

一方で、同シリーズの「ある家族のための」という‘ひとつの家族’というコミュニティ単位に向けて制作される小型の作品については、2018年から現在まで引き続き制作が行われており、世界各地の複数の家族に収蔵されています。さまざまな形で家族が増える度にタイトルに新たな名前が加えられるという、更新されるコミッション・ワーク。それは、時間を超えても存在し続ける家族という永遠の繋がりを表すポートレートです。

White Painting series
Still from video

White Painting series
For a certain family, 2019
Canvas
33.3 × 33.3 cm
Private collection

ユージーン・スタジオ/寒川裕人が生み出す、美術史に深く根ざしながらも既存のありようを切り拓いていく作品群は、愛や運命といった抽象的概念との対峙を誘いつつ、個々の鑑賞者の自由な思考を受容することで人々の想像力を無限に拡大するでしょう。

是非この機会に、会場にて、作品が引き出す際限のない想像の世界をご体感ください。

(MAKI Gallery)

Catalog: Eugene i, ii, iii (MAKI Gallery)

ユージーン・スタジオ/寒川裕人 想像の力 Part1/3 図録『EUGENE i, ii, iii』

本展に際して出版される、三部構成の図録。本図録には、作家の作品がシリーズごとに分かれて収録されており、更に、寒川とMAKI Gallery代表・牧正大の対談、寒川の過去の講義やインタビュー、講演などから抜粋された作家の言葉なども収録され、学術的な考究にも及ぶ作家の思想に深く迫る内容となっております。会場での展示に加え、是非こちらもご高覧ください。

EUGENE iii Goldrain

EUGENE iii Goldrain

本書は寒川の代表的な彫刻作品「Goldrain」を収録。一瞬たりとも同じ様相にはならない「Goldrain」を様々な角度・時間で捉えた数十枚に渡る豊富な図版と、作家が「Goldrain」の構想時に考えていた言葉が挿入されます。

発行年 : 2023年6月
発行元 : MAKI Inc. / MAKI Gallery
サイズ : 252 × 182 mm
仕様 : 上製本/128頁
言語 : 英語、日本語
定価 : 3,960 円(税込)


予約はこちらから(2023年7月中旬以降より順次発送予定)
Nadiff (Official) 海外発送対応

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EUGENE ii Rainbow & White (tentative)

EUGENE ii Rainbow & White (tentative)

本書は「Rainbow Painting series」と「White Painting series」を収録。「Rainbow Painting series」の緻密な筆跡が、原寸大に近いサイズで複数ページに渡り掲載され、実際の作品を前にしたときにも近い没入感を生んでいます。また、本書には、本作にまつわる寒川とMAKI Gallery代表・牧正大の対談が収録され、以前の図録にも収録された『オクトーバー』誌や『フリーズ』誌に寄稿するアメリカの批評家デイヴィッド・ギアーズ氏の論考も再掲されます 。

発行年 : 2023年6月
発行元 : MAKI Inc. / MAKI Gallery
サイズ : 252 × 182 mm
仕様 : 上製本/214頁
言語 : 英語、日本語
定価 : 3,960 円(税込)


予約はこちらから(2023年7月中旬以降より順次発送予定)
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EUGENE i 想像 #1 man & Light and shadow inside me

EUGENE i 想像 #1 man / Light and shadow inside me

本書は「想像 #1 man」についての対談や作家の言葉の抜粋と、本作に連なる寒川の平面作品の代表的なシリーズ「Light and shadow inside me」のモノクローム作品、翠色作品の豊富な図版 や、アトリエ周辺の風景なども収録しています。

発行年 : 2023年6月
発行元 : MAKI Inc. / MAKI Gallery
サイズ : 252 × 182 mm
仕様 : 上製本/208頁
言語 : 英語、日本語
定価 : 3,960 円(税込)


予約はこちらから(2023年7月中旬以降より順次発送予定)
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EUGENE i, ii, iii (3-volume special boxed set)

『EUGENE i, ii, iii』 (3冊ボックスイン特装版)

セット版には『EUGENE i “想像 #1 man / Light and shadow inside me”』『EUGENE ii “Rainbow & White(tentative)”』、『EUGENE iii “Goldrain”』の全3冊の図録が含まれます。また、加えて作家サインや特典付きのボックスインパッケージとなっています。
『i』は「想像 #1 man」と「Light and shadow inside me」シリーズ、『ii』は「Rainbow Painting series」と「White Painting series」を、『iii』には「Goldrain」の豊富な図版を収録。

発行年 : 2023年6月
発行元 : MAKI Inc. / MAKI Gallery
ボックスサイズ : 260 × 191 × 78 mm
仕様 : 上製本/i 208頁、ii 214項、iii 128項
言語 : 英語、日本語
定価 : 18,700 円(税込)


予約はこちらから(2023年7月中旬以降より順次発送予定)
Nadiff (Official) 海外発送対応

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The Artist’s Words

本展に際して三部構成で出版される図録には、寒川の対談や過去のインタビュー、講義などから抜粋された言葉がアーカイブされています。下記は、収録された言葉の一部です。

“想像力の時代”
“……ここ数年で想像という言葉を聞く機会が増えた。想像しえない他者の存在、想像力の限界と怖さを前提としつつもなぜいまそれが重要なのか。
(中略)モニュメンタルなものと抽象、そのあいだ。(中略)「新しい海」*の核はそれらだった。”

*2021年11月20日〜2022年2月23日に東京都現代美術館で開かれた個展「ユージーン・スタジオ/新しい海 EUGENE STUDIO After the rainbow」

講義 “想像の可能性”より、東京大学 先端研 2022年

“……3.11の東日本大震災で、見えないがたしかに存在している物体についてを知った。同時期にSNSという、見えないコミュニティを。日本ではそれらは同時期に広がり、その結果、自分を含めておそらく多くの日本人は、この2つにおいて無意識に想像力をふくらませる必要があった、つまり「想像する力」が必然的に培われたと考えています。”

“……コロナが訪れ、10年以上前に感受していた感覚が世界でも広がった。
この10年、もし得たものがあるとすれば、前進につなげられることがあったとすれば、それは「想像する力」だったかもしれない。”

「ユージーン・スタジオ/新しい海 EUGENE STUDIO After the rainbow」についてのインタビューより、2021年

“……学生のころ、アーティストの藤本由紀夫さんとともにパウル・クレーを見た帰り道に聞いた言葉が“絵画はエンジニアリングである”であった。ゼミの教授の藤本さんはデュシャンの研究者でもあり、例えばデュシャンのポートレートの角度の話や、クレーは戦前にすでにモザイクを絵画に見出していたらしいとか、ほかにも芸術の外にある芸術、そういうことを教わった。20歳のときは、これらは工学的な意ではなく発明こそが重要だと解釈をした。以降はこの言葉が例えば平面に対しては中核にある。
微細であっても発明が最も重要であり、表向き新しいかどうかは基準ではない”

対談より、2023年

“………暗室で、ひとつながりの印画紙を折り曲げて、多角柱にし、一瞬の光を当てる。これは光の波と、支持体のみで作る平面作品である。この印画紙の作品はオイルペインティングとは大差がないように思えてきた。ときに湿度で折り目は少し揺れ、その影が絵となる。(中略)例えばバクテリアから見たら?銀と酸化反応。”

“………ある量子論の研究者とこの作品の話しになったとき(中略)光の立体空間の演算はCPUに大きな負担をもたらす。そのような意味でこの作品はシミュレーションの現実である。そしてこれらは光の粒に反応したものだから、ここには解像度や引き延ばしという概念もほぼない。当然、同じものは一つとしてない。”

対談より

Light and shadow inside me, 2023
300 × 202 cm
Gelatin silver print (photogram)

“ノーフォーカス、ノンパラメトリック”
“……以前の美術館個展のとき、もし仮に「フォーカス(焦点)」という視点で考えるとき高難度の状況が続いたと思う。どの作品も光学的にフォーカス、写真で例えると焦点が合わない。これは作品間にある一つの共通項だ。一緒に展示を回ったある人工知能の研究者は、この状態を例えるならばノンパラメトリック状態だと言った。”

“……ある仮説を持っている。人は見るべき物へ焦点が合わないという視覚状況にあると、視覚に連動するかたちで脳は“想像すること”を始める、それが一種の特殊な状態を生む。これはもしかするといくつかの絵画の重要な分岐点——抽象表現主義、さらに遡ると印象派、他にもいくつかの日本を含む運動の根幹を成した、言語なき基準の一つだったかもしれない。わかりやすいものに対しては脳の反応は小さい。時間も短くなる。対して、焦点が合わないということは、それを契機に脳は通常とは異なる運動になる。2つの穴や、多数の目を追うといった構図論とも異なるものだ。”

“……この個展(東京都現代美術館、2021–2022)の、例えば作品間のコンポジションの構造は、最初にWhite Painting series、次に海庭。通路を抜けるとRainbow Painting series。そして想像 #1 man。White Painting seriesには焦点をあわせる場所はない。海庭は、合わせ鏡で水の水平線が無限に続く、したがって目を遠くにやる。Rainbow Painting seriesもまた焦点をあわせるのは難しい。よく見る必要がある。そして完全な暗闇の彫像の“想像”でフォーカスは完全に消失する。フォーカスが合わない連続、あるいは焦点がとても遠いところへ、最終的には消失する。”

“……その研究者とは、例えば人工知能の観点から考えても人間の思考の営みにおいて、これはひとつの極限の地点なのではないかという話になった。対して至極単純な反応——例えば記号や言葉への反応、類似を見出すなどは、反応として短慮なものでもあるから、すでに技術上代替できる部分があるゆえ、不要とまでは言わないがそれはもはや人間固有のものではなくなってくるかもしれない。ノンパラメトリックという言葉が適切かどうかはわからないが、これは興味深い概念だった。”

レクチャーより

“……そこには強すぎるイメージや記号はない。だからこそそこに想像という主体的な行為が生まれ得る、長い時間を伴って。そうして生まれる個別の関係。それぞれが介入する余地があること。(中略)ジャーナリズムと作品にはそれぞれ異なる特性と重要な役割がある。”

レクチャーより

(本展について)
“……色々な打診やプロポーザルがあったなか、例えば牧さんとの話の中で、数年かけての試みであることや、作品ごとの図録、アトリエとの連動などの方法を。”

(2つの場について)
“……展覧会の作法について考えるとき、これは有機的なアプローチかもしれない。作品が先立つかたちで作られたこのアトリエは、当初意識せずに作ったが(中略)海外問わず美術館などの訪問者たちが類を見ない場所と話しているなかで、ギャラリーや美術館、オルタナティブスペースとも異なる有機的な状態になりつつあると。”

対談より

Information

1. MAKI Gallery (Tennoz, Tokyo)

予約は不要です。

展覧会名
ユージーン・スタジオ/寒川裕人 想像の力 Part 1/3
会期
2023年6月2日(金)〜8月5日(土)
会場
MAKI Gallery / 天王洲, 東京
〒140-0002 東京都品川区東品川1丁目33-10 TERRADA ART COMPLEX I
(Google Maps)
休館日
毎週日曜日、月曜日、7/4(火曜日)
開館時間
11:30-18:00
料金
無料
主催
MAKI Gallery
協力
スタンレー電気株式会社
WEBサイト
https://vip-mkg-eugenestudio-kangawa-231.makigallery.com/
※会期中、トークやパフォーマンスを予定しています。
※適切な作品体験をしていくただくため、入場制限を行うことがあります。予めご了承ください。最新の情報はwebサイトをご覧ください。

Access

MAKI Gallery / 天王洲, 東京
〒140-0002 東京都品川区東品川1丁目33-10 TERRADA ART COMPLEX I
(Google Maps)
Tel:
天王洲(会場):03-6810-4850 表参道(本社):03-6434-7705
E-mail:
info@makigallery.com

Information

2. Special Venue:
EUGENE STUDIO Atelier iii

予約制

会期
2023年6月2日(金)〜8月5日(土)
開館日/開館時間
完全予約制 *下記リンクよりご覧ください。
料金
事前予約制/1グループ ¥5,000
*システム手数料を除き全額を寄付(ユニセフ/トルコ・シリア大地震に関する自然災害緊急募金)
*事前一般枠が完売したため、新たに一部時間外の枠(朝10時からの会および夕方17時からの会)を順次設けます。ご予約は下記リンクより可能です。
*住所は非公開となり、お申し込みをいただいた方に予約完了後に住所が送付されます。東京都心より軽井沢方面へ車で1時間強。
予約:
https://artsticker.app/events/3864 (ArtSticker™)